「水はしっかり飲みました」。
救急車で搬送される方の多くが、そう口にします。しかし、その「水だけ」が、実はあなたの体を追い詰めている可能性があります。
現場で私たちが真っ先に確認するのは、飲んだ量ではなく、体の「濃度」です。
もし今、あなたが水を飲んでいるにもかかわらず、ズキズキする頭痛や吐き気を感じているなら、それは「自発的脱水」という危険なサインかもしれません。
この記事では、救急救命士としての現場経験に基づき、今すぐコンビニでできる「30秒チェック」と、頭痛薬に頼らず安全に回復するための具体的なアクションをお伝えします。
この記事の著者
| 高橋 誠 (Makoto Takahashi) |
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| 救急救命士 / 熱中症対策アドバイザー 15年間の救急隊員経験を持ち、数多くの熱中症患者の搬送・トリアージに従事。「隠れ脱水」の危険性を啓蒙するため、企業向けの安全衛生講習やスポーツ現場での指導を行っている。「現場で使える知識」の発信に定評がある。 |
記事監修
| 監修:[医師・薬剤師名] |
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| 本記事の医学的記述および対処法は、環境省熱中症予防ガイドラインおよび日本救急医学会の指針に基づき監修されています。 |
なぜ「水は飲んだ」のに頭痛がするのか?危険な「自発的脱水」の正体
「喉が渇いたから水を飲む」。これは平常時なら正しい行動です。しかし、大量に汗をかいた後に「水だけ」を飲むことは、実は逆効果になることがあります。
体液が薄まると、体は水を拒絶する
私たちの体液(血液など)は、常に約0.9%の塩分濃度に保たれています。汗をかくと、水分と一緒に塩分も失われます。この状態で水(真水)だけを飲むと、どうなるでしょうか?
体液の塩分濃度が一気に薄まってしまいます。すると体は、濃度を正常に戻そうとして、「これ以上、水を吸収してはいけない」と判断し、喉の渇きを止め、せっかく飲んだ水を尿として排出しようとします。
これが「自発的脱水」と呼ばれる現象です。自発的脱水と水(真水)の関係は、まさに「飲めば飲むほど脱水が進む」という悪循環を生み出します。あなたが感じている頭痛や吐き気は、体液が薄まり、脳や臓器に必要な血液が回らなくなっているSOSサインなのです。

【30秒チェック】今すぐコンビニで「経口補水液」を一口飲んでください
では、今のあなたの状態が「ただの疲れ」なのか、危険な「塩分不足(脱水)」なのか。それを客観的に判断する最も確実な方法があります。
今すぐ近くのコンビニや薬局に入り、「経口補水液(OS-1など)」を一本買ってください。そして、一口飲んでみてください。
味覚は嘘をつかない
経口補水液と味覚チェックの関係は、非常にシンプルかつ強力な判定ツールとなります。経口補水液は、脱水状態の体にとって最適な塩分濃度で作られています。そのため、体の状態によって「味の感じ方」が劇的に変わるのです。
以下のフローチャートに従って、自分の状態を判定してください。

💡 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「美味しい」と感じたら、それは体が渇望している証拠です。躊躇せず飲み干してください。
なぜなら、多くの人が見落としがちですが、脱水時の「美味しい」という感覚は、脳が生存のために出している強力な指令だからです。普段はしょっぱくて飲みにくいOS-1が甘く感じるなら、あなたの体はまさに今、枯渇しています。味が変わる(しょっぱく感じるようになる)まで、ちびちびと飲み続けるのが正解です。
経口補水液がない時は?コンビニで揃う「最強の回復セット」
「コンビニに経口補水液が売っていなかった」「味がどうしても苦手」という場合もあるでしょう。そんな時でも、諦める必要はありません。コンビニにある身近な商品で、点滴に近い効果を得られる組み合わせがあります。
「ミネラル麦茶」+「梅干しおにぎり」
私が現場でおすすめしているのが、このセットです。
- ミネラル麦茶 (600ml): カフェインゼロで利尿作用がなく、適度なミネラルを含んでいます。
- 梅干しおにぎり: 梅干しおにぎりと回復食の関係は理にかなっています。梅干しの塩分(ナトリウム)とクエン酸、そしてお米の糖分が揃うことで、水分の吸収効率が格段に高まります。
スポーツドリンクも悪くありませんが、糖分が多すぎて急激な血糖値上昇を招いたり、逆に喉が渇いたりすることがあります。緊急時の回復食としては、「麦茶+梅干し」がバランスの面で最強の代替案です。
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絶対にやってはいけない「2つのNG行動」と受診の目安
最後に、命を守るために絶対に避けてほしい行動と、病院へ行くべきラインをお伝えします。
1. 頭痛薬(ロキソニン等)を飲むのはNG
「頭が痛いから」と、安易に鎮痛剤を飲むのは非常に危険です。
NSAIDs(頭痛薬)と腎臓への負担の関係を知ってください。脱水状態で血液量が減っている時に鎮痛剤を飲むと、腎臓への血流がさらに悪化し、急性腎障害を引き起こすリスクがあります。まずは水分と塩分を補給し、血流を戻すことが先決です。
2. 冷たい水を一気飲みする
焦って冷水をガブ飲みすると、胃痙攣(いけいれん)や嘔吐を誘発します。吐いてしまえば、さらに脱水が進みます。常温に近いものを、一口ずつゆっくり飲むのが鉄則です。
病院へ行くべき目安
以下の症状がある場合は、自力での回復は困難です。迷わず医療機関を受診するか、救急車を呼んでください。
- 水分・塩分を補給しても、30分以上症状(頭痛、吐き気)が改善しない。
- 意識がぼーっとする、会話がおかしい。
- 自分で水が飲めない、吐いてしまう。
まとめ:今すぐコンビニへ行き、経口補水液を手に取ってください
「たかが頭痛」「たかが夏バテ」と侮らないでください。
水は飲んでいるのに不調が続くなら、あなたの体は今、塩分を求めて悲鳴を上げています。
- 水だけ飲むのはストップ。
- コンビニで「経口補水液」を買う。
- 一口飲んで「味」で判定する。
その一本が、あなたを救う命綱になります。今すぐ行動してください。
参考文献
- 熱中症環境保健マニュアル 2022 - 環境省
- 熱中症診療ガイドライン 2015 - 日本救急医学会
- 経口補水液OS-1(オーエスワン)とは - 大塚製薬工場