[著者情報]
この記事を書いた人:氷室 誠
悪徳商法ジャーナリスト / 消費者トラブル対策アドバイザー
「感情論は捨てろ。数字と法律だけがあなたを守る」を信条に、10年以上にわたりMLM(マルチ商法)の実態を潜入調査。消費者センターと連携し、若者の解約相談やマインドコントロール解除を支援している。
「久しぶりに飯でも行こうぜ」
尊敬する大学の先輩からの誘い。懐かしい話に花が咲くと思いきや、カフェで切り出されたのは「権利収入」「先行者利益」「すごい経営者とビジネスを立ち上げた」という、耳慣れない言葉の数々ではありませんでしたか?
今、あなたの手元には、先輩から渡された「クオリア(QUALIA)」のパンフレットがあるかもしれません。そして心の中は、「先輩を信じたい気持ち」と、スマホで検索して出てきた「やばい」「業務停止」という不穏なワードへの恐怖で、ぐちゃぐちゃになっているはずです。
「断りたい。でも、お世話になった先輩との関係を壊したくない」
その優しさは美徳ですが、ここでは命取りになります。はっきり言います。先輩は悪人ではないかもしれませんが、巧妙に設計された集金システムの「被害者」であり、同時にあなたを巻き込む「加害者」になろうとしています。
この記事では、感情論は一切排除します。
私があなたに渡す武器は、「メルカリの価格データ」と「特定商取引法」という2つの客観的な事実だけです。これさえあれば、どんなに熱心な勧誘も、先輩との関係を維持したまま、論理的に、そして一瞬で凍りつかせることができます。
なぜ「やばい」と言われるのか? アリックスの亡霊と業務停止の記憶
まず、あなたが勧誘されている「株式会社QUALIA(クオリア)」という組織の正体を、客観的な事実に基づいて解剖します。ネット上の「詐欺だ!」という感情的な書き込みを見る必要はありません。見るべきは、消費者庁の公表資料です。
業務停止処分を受けた「アリックス」からの転生
クオリアについて語る上で、「ARIIX(アリックス)」という名前は避けて通れません。
2020年11月、消費者庁はMLM企業であるアリックス・ジャパンに対し、9ヶ月間の業務停止命令を出しました。その理由は、「氏名等の明示義務違反(ブラインド勧誘)」や「書面不交付」といった、特定商取引法違反の数々です。
ここからが重要です。株式会社QUALIAは、このアリックスが業務停止処分を受けている最中に、同社のトップリーダーたちが会員を引き抜く形で設立されました。
つまり、クオリアとアリックスは、単なる競合他社ではなく、実質的な「転生・継承」の関係にあります。
組織のトップが、過去に厳しい行政処分を受けたグループの出身であるという事実は、コンプライアンス(法令遵守)の観点から見て極めてリスクが高いと言わざるを得ません。先輩が語る「新しいビジネス」の根幹には、過去の「やばい」体質がそのまま引き継がれている可能性が高いのです。

【証拠画像あり】ビジネスとして詰んでいる理由。メルカリ価格を見よ
「商品は本物だ」「NMNサプリはこれから爆発的に売れる」。先輩はそう熱弁したかもしれません。
しかし、ビジネスとして捉えたとき、その主張は「市場価格」という冷徹な数字の前で崩れ去ります。
論より証拠です。今すぐスマホで「メルカリ」を開き、「クオリア NMN」と検索してみてください。
定価の1/3で投げ売りされる「在庫の山」
そこには、衝撃的な光景が広がっているはずです。
クオリアの主力商品であるNMNサプリメント(DIOSA)の価格を見てみましょう。
| 項目 | 正規ルート(会員価格) | メルカリ転売価格(実勢価格) | 差額(ビジネスとしての損失) |
|---|---|---|---|
| NMNサプリ (DIOSA) | 約16,500円 | 約6,000円〜7,000円 | 約-10,000円 (大赤字) |
| 購入条件 | 毎月の定期購入(オートシップ)が必要 | 誰でも1個から購入可能 | - |
| 消費者の心理 | 「会員登録して高く買う」 | 「登録なしで安く買う」 | ビジネス不成立 |
この表が意味することは残酷です。
正規会員価格とメルカリ価格の間には、埋めようのない「市場乖離」が発生しています。
あなたがビジネス会員になって、毎月16,500円で商品を仕入れたとします。それを友人に定価で売ろうとしても、友人はスマホ一つで6,000円の新品を見つけることができます。
「Amazonやメルカリの方が1万円も安い」。この事実を突きつけられて、それでもあなたから買いたいという人が、果たして何人いるでしょうか?
在庫を抱えた会員たちが、損切り覚悟でメルカリに大量放出し、それがさらに価格を下げる。この「値崩れの悪循環」に陥っている商品で、権利収入を得ることは不可能です。これは感情論ではなく、単純な算数の問題です。
[EBIボックス]
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 先輩に「稼げるの?」と聞く代わりに、「このサプリ、メルカリで6,000円で売ってるけど、どうやって定価で売るつもりなんですか?」とスマホ画面を見せてください。
なぜなら、マインドコントロール下にある会員は、セミナーで夢ばかりを見せられ、この「市場の現実」を直視していないことが多いからです。あなたの提示する具体的な数字は、先輩の目を覚ます最強のカウンターパンチになります。
「友達」をやめずに「勧誘」だけ止める。特商法を使った最強の断り方
ビジネスとしての破綻は証明できました。次は、実際にどうやって断るかです。
「興味がない」「お金がない」という曖昧な断り方はNGです。「興味が出るまで教えるよ」「稼げば返せるよ」と切り返されるのがオチです。
ここで使うべきは、法律(特定商取引法)という絶対的な盾です。
「再勧誘の禁止」という法的バリア
特定商取引法には、以下のような強力な規定があります。
**特定商取引法 第3条の2 第2項(再勧誘の禁止)** 販売業者又は役務提供事業者は、売買契約若しくは役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約若しくは当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。
出典: 特定商取引法ガイド - 消費者庁
つまり、あなたが一度「契約しません」とはっきり伝えれば、それ以降、先輩があなたを勧誘する行為はすべて「違法行為」となります。
これを利用して、先輩を悪者にせず、あくまで「法律のせい」にして断るのが、関係を壊さないスマートな撤退戦です。
コピペで使える「お断りLINEテンプレート」
以下の文章を、あなたの状況に合わせて調整し、LINEで送ってください。ポイントは、感情を入れず、事務的に送ることです。
[引用指示: そのままコピペして送信できる『お断りLINEテンプレート』]
件名: 先日のビジネスのお話について
〇〇先輩、先日はお時間をいただきありがとうございました。
ご提案いただいたクオリアの件ですが、慎重に検討した結果、私は参加しない意思を固めました。
理由は、現在の私のライフプランに合わないためです。
つきましては、特定商取引法の「再勧誘の禁止」の規定に基づき、今後このビジネスに関する勧誘は一切お控えいただけますようお願い申し上げます。
先輩との友人としての関係は大切にしたいと思っていますので、今後はビジネス抜きで、またご飯に行けたら嬉しいです。
私の意思を尊重していただけることを信じています。
このメッセージを送れば、まともな神経の持ち主なら二度と誘えません。もしこれでもしつこく誘ってくるなら、その先輩は法律よりも自分の利益を優先する危険人物です。即座にブロックして正解です。
よくある質問:クーリングオフや「権利収入」の嘘について
最後に、あなたが抱えているかもしれない残りの不安を解消しておきましょう。
Q. 場の空気に流されて契約してしまいました。解約できますか?
A. 可能です。クーリングオフ制度を使いましょう。
契約書面を受け取った日(または商品が届いた日)を含めて20日以内であれば、無条件で契約を解除できます。ハガキやメールで通知するだけでOKです。先輩に連絡する必要はありません。会社に直接通知してください。
Q. 「今は立ち上げ期だからチャンス」と言われました。本当ですか?
A. 典型的なセールストークです。
「先行者利益」という言葉は、リスクを隠すための常套句です。前述の通り、クオリアはアリックスの「転生」であり、組織の実態は古いです。また、どれだけ早く参入しても、勧誘行為と特定商取引法の規制からは逃れられません。違法スレスレの勧誘を続けなければ維持できない収入に、安定した未来はありません。
まとめ:賢い撤退は、勇気ある行動だ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今のあなたは、もう「何も知らないカモ」ではありません。「メルカリ価格」という経済的根拠と、「特商法」という法的根拠を持った、賢明な判断者です。
先輩を断ることに罪悪感を持つ必要はありません。むしろ、あなたが毅然と断ることで、先輩自身も「このビジネスは世間には通用しない」と気づくきっかけになるかもしれません。それは、友人としての最大の優しさでもあります。
さあ、勇気を出して、先ほどのLINEを送ってください。
もし、脅されたり、帰してもらえないなどのトラブルに遭った場合は、迷わず消費者ホットライン「188(いやや)」へ電話してください。プロがあなたを守ってくれます。
あなたの平穏な日常と、大切なお金が守られることを、心から願っています。
[監修者情報]
[参考文献リスト]
- 特定商取引法ガイド - 消費者庁
- 特定商取引法違反の連鎖販売業者に対する取引等停止命令(9か月)及び指示について - 消費者庁 (2020年11月 アリックス・ジャパンへの処分)
- 国民生活センター 相談事例 - 独立行政法人 国民生活センター