静かな生活を夢見て、家賃が高めの「鉄筋コンクリート(RC)造」マンションに引っ越したあなた。
それなのに、夜な夜な頭上から響いてくる「ドス、ドス」という鈍い音。
仕事に集中できず、寝つきも悪くなり、イライラは募るばかり。
「高い家賃を払ったのになぜ?」
「自分が神経質なだけ?」
そんな怒りと不安を抱えていませんか?
結論から申し上げます。あなたは決して神経質ではありません。
その音は、建物の構造的な弱点と、住人の無意識な行動が重なって起きる「物理現象」です。
この記事では、500件以上の騒音トラブルを解決してきたマンション管理士が、音が響くメカニズムと、管理会社を確実に動かして騒音を止めさせるための「証拠(ログ)の作り方」を伝授します。
👤 著者プロフィール
マンション管理士・サトウ
騒音トラブル解決専門のマンション管理士 / 元建築施工管理技士
建築構造の知識と管理組合運営のノウハウを組み合わせた「揉めない解決策」に定評がある。「その辛さ、建物のプロとして保証します。あなたは悪くありません」と寄り添い、感情論ではなく論理的なアプローチで平穏な生活を取り戻すサポートを行っている。
鉄筋コンクリートでも響く!「ドスドス音」の正体とは
まず、「鉄筋コンクリート(RC)造なら防音は完璧」という誤解を解きましょう。
マンションの騒音には、大きく分けて2種類あります。
- 軽量床衝撃音(LL): スプーンを落とした時のような「カチャン」「コツコツ」という軽くて高い音。
- 重量床衝撃音(LH): 子供が飛び跳ねたり、大人がドスドス歩いたりする時の「ドスン」「ズシン」という重くて鈍い音。
RC造の厚いコンクリート壁や床は、話し声やテレビの音(空気伝播音)や、軽量床衝撃音を防ぐのには非常に優秀です。しかし、「重量床衝撃音」は苦手なのです。
なぜなら、この音はコンクリートの床(スラブ)そのものを揺らして伝わる振動だからです。どれだけ壁が厚くても、建物自体が揺れてしまえば、その振動は下の階に「音」として伝わってしまいます。
つまり、あなたが聞いている「ドスドス音」は、建物の構造上、物理的に防ぐのが非常に難しい音なのです。

高級マンションの罠?音を増幅させる「太鼓現象」
さらに厄介なのが、高級マンションやリノベーション物件で採用されることの多い「二重床」という構造です。
二重床は、コンクリートスラブの上に支持脚を立てて、その上にフローリングを張る構造です。床下に空間ができるため、配管のメンテナンスがしやすく、保温性も高いというメリットがあります。
しかし、遮音性に関しては大きな落とし穴があります。それが「太鼓現象」です。
床下の密閉された空間が、太鼓の胴のような役割を果たしてしまい、上で生じた振動(足音)を空洞の中で共振させ、増幅して下の階に伝えてしまうのです。
「直床(コンクリートに直接クッション付きフローリングを張る)」の方が、見た目は安っぽいかもしれませんが、実はドスドス音に関しては響きにくいケースも多いのです。
「いいマンションだから静かなはず」という期待は、この太鼓現象によって裏切られることが多いのです。

管理会社は「感情」では動かない。「騒音ログ」で戦え
原因がわかったところで、どうすればこの音を止められるでしょうか?
多くの人がやりがちなのが、管理会社に電話して「上の階がうるさいんです!なんとかしてください!」と感情的に訴えることです。
しかし、これでは管理会社は動きません。「生活音はお互い様ですから…」「一応注意しておきますね(何もしない)」で終わってしまいます。なぜなら、彼らにとってそれは「証拠のない主観的なクレーム」に過ぎないからです。
管理会社を動かす最強の武器、それは「騒音ログ」です。
いつ、どんな音が、どのくらいの頻度で聞こえ、あなたの生活にどんな支障が出ているか。これを客観的なデータとして記録してください。
【騒音ログの記録項目】
- 日時: ○月○日 ○時○分〜○時○分
- 音の種類: ドスドス歩く音、子供が走る音、物を落とす音など
- 大きさ: テレビの音が聞こえないレベル、睡眠が妨げられるレベルなど
- 被害: 会議が中断した、目が覚めた、動悸がしたなど
このメモを1〜2週間分まとめて管理会社に提出(またはメール)してください。「これだけの頻度で被害が出ており、受忍限度を超えている」と伝えることで、管理会社はこれを「対応すべき事案」として扱わざるを得なくなります。
そのまま使える「騒音ログ」
| 日時 | 音の種類 | 大きさ・特徴 | 被害・備考 |
| 10/1 23:15 | ドスドス歩く音 | 天井が振動するレベル | 就寝中だったが目が覚めた |
| 10/2 07:30 | 子供の走り回り | 連続して10分間続く | 在宅ワークに集中できない |
| 10/3 21:00 | 物を落とす音 | 「ガタン」という衝撃音 | 心臓がドキッとした |
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直接対決はNG!「全戸配布」から始めるスマートな解決手順
最後に、絶対にやってはいけないのが「直接苦情を言いに行く」ことや「天井を棒で突く(壁ドン)」ことです。これらは新たなトラブルを生み、最悪の場合、あなたが加害者になってしまいます。
実は、「ドスドス歩き(かかと歩き)」をしている本人は、自分がそんな音を出していることに全く気づいていないケースが大半です。悪気がないのです。
ですから、まずは管理会社を通じて「全戸配布の注意喚起チラシ」を入れてもらうことから始めましょう。
「最近、足音に関する苦情が寄せられています。かかと歩きは意外と響きます」といった内容のチラシを見ることで、「あ、もしかしてウチかも?」と気づかせることができれば、それだけで改善することも多いのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 騒音トラブル解決の鉄則は、「相手を特定せずに気づかせる」ことです。
なぜなら、特定の部屋を指名して注意すると、相手は「攻撃された」と感じて防衛的になり、意固地になって余計に音を出すことがあるからです。まずは「マンション全体の問題」として周知し、それでもダメならログを添えて「個別注意」へとステップを進めるのが、最も安全で確実なルートですよ。
まとめ:静寂を取り戻すために、まずは「記録」から始めよう
上の階の足音は、あなたの神経のせいではありません。
RC造の限界、二重床の太鼓現象、そして住人の無自覚が重なった物理現象です。
- RC造でもドスドス音は防げない。
- 二重床は太鼓現象で音が響きやすい。
- 感情ではなく「騒音ログ」で管理会社を動かす。
泣き寝入りして引っ越しを考える前に、まずは今夜からスマホのメモ帳でいいので「騒音ログ」をつけ始めてください。
その記録が、あなたの静かな生活を取り戻すための、最強の武器になります。