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ウォンバットが人懐っこいのはなぜ?「警戒心ゼロ」の理由と意外な真実

仕事の休憩中、SNSで流れてきた動画に思わず手を止めてしまったことはありませんか?

飼育員さんの足元にまとわりつき、作業を邪魔するように抱っこをせがむ、ずんぐりむっくりした生き物。そう、ウォンバットです。

「野生動物なのに、なんでこんなに無防備なの!?」
「もしかして、犬や猫よりも懐いてるんじゃ…?」

そんな純粋な驚きと疑問を感じたあなたへ。実はその愛らしさの裏には、彼らの故郷オーストラリアの「平和すぎる環境」と、過酷な自然を生き抜くための「意外な強さ」が隠されているんです。

この記事では、元飼育員の視点から、あの「警戒心ゼロ」な行動の生物学的な理由と、ネットでまことしやかに囁かれる「寂しいと死ぬ説」の真実、そして知られざる野生の顔について解説します。


👤 著者プロフィール

動物生態ライター・マナブ
元動物園飼育員 / サイエンスコミュニケーター
動物園での飼育経験を経て、現在は「難しい生態学を、面白おかしく伝える」をモットーに執筆活動を行う。特に有袋類の生態に詳しく、子ども向けの動物図鑑の監修や、動物園の解説パネル制作なども手掛ける。「その動画、最高に可愛いですよね!」と共感しつつ、教科書には載っていない裏話を教えるのが得意。


なぜ逃げない?ウォンバットが「警戒心ゼロ」な生物学的理由

まず、私たちが一番不思議に思う「なぜ逃げないのか?」という点から紐解いていきましょう。

結論から言うと、ウォンバットには「逃げる必要がなかった」という進化の歴史があります。

彼らの故郷であるオーストラリア、特にタスマニア島などの生息地は、長い間、大型の肉食獣(天敵)が非常に少ない環境でした。ライオンやオオカミのような、足が速く強力な捕食者がいない世界です。

通常の野生動物であれば、敵に見つかったら一目散に逃げなければ命を落とします。しかし、天敵が少ない環境にいたウォンバットは、エネルギーを使って「逃げ足」を速くするよりも、地面を掘って頑丈な巣穴を作る能力や、消化の悪い草をゆっくり消化するための代謝の低さを進化させました。

その結果、あのようなずんぐりとした体型になり、性格ものんびりとして警戒心が薄くなったと考えられています。つまり、あの「警戒心ゼロ」に見える態度は、平和な環境が生んだ「余裕の証」なのです。


動画の甘えん坊は「人工哺育」の賜物?

「でも、いくら警戒心が薄いと言っても、野生動物があそこまで人間にベタベタするのは変じゃない?」

そう思ったあなたは鋭いです。実は、SNSでバズっているような「飼育員に抱っこをせがむ動画」の個体には、ある共通点があります。

それは、幼い頃から人間に育てられた「人工哺育」の個体である可能性が高いということです。

本来、野生のウォンバットは単独行動を好み、母親以外にはそれほど依存しません。しかし、動物園や保護施設で親を亡くし、人間の手でミルクを与えられて育ったウォンバットは、飼育員を「親」や「群れの仲間」として認識します(刷り込み)。

あの動画で見られる「後ろをついて回る」「足にまとわりつく」という行動は、野生下で子供が母親に対して行う愛情表現そのものなのです。

つまり、「人懐っこい」という性質は、天敵不在による「警戒心の薄さ」というベースの上に、人工哺育による「人間への信頼関係」が積み重なって生まれた奇跡と言えるでしょう。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 動画を見て「ペットにしたい!」と思うかもしれませんが、一般家庭での飼育は極めて困難です。

なぜなら、彼らは「穴掘りのプロ」であり、家の床や壁を破壊するほどのパワーを持っているからです。また、温度管理も非常にシビアです。あの愛らしさは、プロの飼育員さんが適切な環境と距離感で接しているからこそ成り立つものだと知っておいてくださいね。


【噂の検証】「寂しいと死ぬ」って本当?

ウォンバットについて調べると、必ずと言っていいほど出てくるのが「寂しいと死ぬ」「構ってあげないと鬱になる」という噂です。これは本当なのでしょうか?

結論から申し上げますと、「寂しいだけで死ぬ」というのは都市伝説(誇張)です。

これはウサギの都市伝説と混同されたり、極端なエピソードが広まったものと考えられます。生物学的に、孤独が直接の死因になることはありません。

ただし、「社会性が高く、孤独に弱い」というのは事実です。

特に、先ほどお話しした人工哺育で育った個体の場合、飼育員とのスキンシップが急に減ると、食欲不振になったり、元気がなくなったりする「鬱のような状態」になることが報告されています。

オーストラリアの保護施設でも、母親を失った孤児のウォンバットには、ぬいぐるみを抱かせたり、スタッフが頻繁に声をかけたりして心のケアを行います。「死ぬ」まではいかなくとも、彼らがとても繊細な心を持っていて、信頼した相手との絆を大切にする生き物であることは間違いありません。


可愛いだけじゃない!「お尻で敵を倒す」野生の顔

ここまで「のんびり」「甘えん坊」な一面ばかり紹介してきましたが、最後に彼らの名誉のために、野生動物としての「意外な強さ」を紹介させてください。

実はウォンバット、お尻が最強の武器なんです。

彼らのお尻の皮膚は非常に分厚く、硬い軟骨で覆われています。まるで「生きた盾」です。
野生でディンゴ(オーストラリアの野犬)やタスマニアデビルなどの敵に襲われると、彼らは頭から巣穴に飛び込み、入り口をこの硬いお尻で塞いでしまいます。

そして、敵が無理やり頭を突っ込んでこようとすると、強靭な脚力でお尻を持ち上げ、巣穴の天井と自分のお尻の間に敵の頭蓋骨を挟み込んで砕く(!)という、必殺技を持っています。

普段はあんなに無防備な顔をして甘えてくるのに、いざとなればお尻一つで敵を撃退する。この「究極のギャップ」こそが、ウォンバットという生き物の本当の魅力なのかもしれません。


まとめ:日本でウォンバットに会える場所

ウォンバットが人懐っこい理由、それは「平和な故郷で育まれた警戒心のなさ」と、「飼育員さんとの深い愛情の絆」によるものでした。そしてその愛らしい姿の裏には、お尻で敵を倒すような野生の逞しさも秘められています。

ただ可愛いだけじゃない、彼らの「尊さ」を知った今、あの動画を見る目が少し変わったのではないでしょうか?

実は、この愛すべき生き物には、日本でも会うことができます。

  • 五月山動物園(大阪府池田市)
  • 茶臼山動物園(長野県長野市)

特に五月山動物園は「ウォンバットの聖地」とも呼ばれ、世界最高齢のギネス記録を持つ個体が暮らしていたことでも有名です。

ぜひ今度の休日は、スマホの画面越しではなく、本物の「動くぬいぐるみ」たちに会いに行ってみてください。運が良ければ、飼育員さんに甘える姿や、自慢のお尻を見せてくれるかもしれませんよ。


参考文献

-動物