せっかくデスク周りを白と木目で統一して、理想の空間を作り上げたのに、足元を見るとそこには黒くてゴツい「ゲーミングPC」。その無機質な鉄の塊と派手なLEDが、こだわりのインテリアから浮いてしまっていて、見るたびにため息をついていませんか?
「いっそ、PCケースも木製で自作してしまおうか」
そう思って検索してみても、出てくるのは本格的な工具を使った高度なDIY記事ばかり。「自分には無理だ」と諦めかけているあなたに、朗報があります。
実は、ノコギリも設計図も一切使わずに、まるで高級家具のようなPCケースを作る方法があります。それは、ゼロから「作る」のではなく、精度の高い市販のフレームに、プロがカットした銘木を「着せる」というアプローチです。
この記事では、Webデザイナーであるあなたが、週末だけで完成させられる、最もスマートで失敗のない「PCケース家具化」メソッドを伝授します。
[著者情報]
この記事を書いた人:ケンタ
デスク環境構築アドバイザー / 自作PC歴15年「機能美とインテリアの融合」をテーマに発信するミニマリスト。かつて理想のPCケースを求めてホームセンターの木材と格闘し、寸法ズレでグラボが入らないという絶望的な失敗を経験。その教訓から、「箱をゼロから作らない」という合理的解決策に辿り着く。現在は、誰でも簡単にできる「デスクの家具化」を提唱している。
なぜ「PCケースの自作」は9割失敗するのか?
「木材を買ってきて、箱を作ればいいだけでしょ?」
もしあなたがそう考えているなら、少しだけ待ってください。かつての私も同じように考え、ホームセンターでパイン材を買い込み、意気揚々とノコギリを引きました。しかし、結果は散々なものでした。
素人の「手ノコ」では、PCパーツは入らない
PCパーツ、特にマザーボードやグラフィックボードは、ミリ単位の規格で作られた精密機器です。ネジ穴の位置が1ミリずれるだけで、パーツは固定できません。
ホームセンターで売られている木材は、乾燥具合によって微妙に反っています。さらに、私たちが手作業でノコギリを引くと、切断面はどうしても斜めになります。この「反り」と「歪み」が積み重なると、箱を組み上げた時に致命的なズレとなり、「せっかく作ったのにマザーボードが入らない」という悲劇が起こるのです。
「箱」をゼロから作ってはいけない
結論を言います。DIY初心者が、PCケースという「箱」をゼロから設計し、加工して作ろうとすると、9割の確率で失敗します。それはあなたの技術不足ではなく、木材という素材の難しさと、PCパーツが要求する精度の高さのギャップによるものです。
だからこそ、私たちは発想を転換する必要があります。「箱を作る」のではなく、「確実な骨格を利用する」のです。
新常識:長尾製作所 × マルトクショップで「着せ替え」る
では、どうすれば失敗せずに理想の木製ケースが手に入るのでしょうか。その答えが、私が提唱する「着せ替えメソッド」です。
この方法は、以下の3つのエンティティ(要素)を組み合わせることで、それぞれの強みを最大限に活かします。
- 長尾製作所のオープンフレーム(骨格)
- マルトクショップのオーダーカット木材(外装)
- ネオジム磁石(接合)
1. 骨格は「長尾製作所」に任せて精度を担保する
まず、PCケースとしての機能(パーツの固定、電源の配置)は、プロの製品に任せます。ここで採用するのが、長尾製作所のオープンフレームです。
これは本来、パーツのテスト用に使われる「むき出しのケース」ですが、日本の精密板金メーカーが製造しているだけあって、その剛性と精度は完璧です。長尾製作所のフレームを使うことで、自作PCにおける最大の難関である「マザーボード固定やPCIスロットの精度」は100%保証されます。
2. 外装は「マルトクショップ」で指名買いする
次に、その骨格を覆う「服」を用意します。ここでホームセンターの木材を使ってはいけません。私たちが利用するのは、ネット通販のマルトクショップです。
マルトクショップとホームセンターの決定的な違いは、その「加工精度」と「樹種の豊富さ」にあります。 マルトクショップなら、デスクと同じ「ウォールナット」や「オーク」といった銘木を、1mm単位の精度でカットして届けてくれます。しかも、塗装までプロに依頼できるため、届いた瞬間から家具としての質感が完成しています。
3. 接合は「ネオジム磁石」で加工を回避する
最後に、木材をフレームに固定する方法です。ここでドリルやネジは使いません。木工加工(ネジ止め)の代替策として、超強力な「ネオジム磁石」を使用します。
これにより、難しい穴あけ加工が不要になるだけでなく、メンテナンス時にはワンタッチでパネルを取り外せるようになります。

実践!工具なしで作る「家具化PC」の3ステップ
それでは、具体的な手順を見ていきましょう。やるべきことはシンプルに3つだけです。
Step 1: フレームの選定と組立
まずは、長尾製作所の「N-FRAME-ATX(またはMicro-ATX)」を購入し、いつも通りにPCパーツを組み込みます。この時点でPCとしては完成しており、動作確認もできるため、「動かなかったらどうしよう」という不安から解放されます。
Step 2: 木材の「指名買い」オーダー
フレームが組み上がったら、その外寸をメジャーで測ります。そして、マルトクショップで以下の5枚の板をオーダーします。
- 天板 × 1
- 側板 × 2
- 前面板 × 1
- 底板 × 1(必要に応じて)
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 木材の厚みは「10mm〜15mm」を選び、サイズはフレーム実寸より「上下左右に2mmずつ」大きくオーダーしてください。
なぜなら、木材は湿度でわずかに伸縮するため、ギリギリのサイズだとフレームからはみ出したり、隙間ができたりするからです。この「遊び」を持たせることが、プロっぽい仕上がりのコツです。
Step 3: 磁石による「パチっと」固定
木材が届いたら、木材の裏面(フレームと接する位置)に、2液混合エポキシ接着剤でネオジム磁石を貼り付けます。接着剤が乾けば、あとはフレームの鉄部分に「パチっ」と貼り付けるだけ。
これで、あなたのデスクにぴったりの、世界に一つの木製PCケースの完成です。
📊「家具化PC」制作に必要なものリスト
| アイテム | 役割 | 推奨製品・備考 | 概算予算 |
|---|---|---|---|
| オープンフレーム | PCの骨格・精度担保 | 長尾製作所 N-FRAME-ATX | 約15,000円 |
| 木材パネル | 外装・デザイン | マルトクショップ (ウォールナット/オーク等) | 約10,000円〜 |
| ネオジム磁石 | パネル固定 | 丸型・皿穴なし (直径10mm程度) | 約1,000円 |
| 接着剤 | 磁石の固定 | 2液混合エポキシ接着剤 (金属・木材用) | 約500円 |
| 合計 | - | - | 約26,500円〜 |
「木だと燃えませんか?」安全性への疑問に答える
「木でPCを囲って、熱で燃えたりしませんか?」
「電磁波やアースの問題は大丈夫?」
これらは、私がこの方法を紹介する際、必ずと言っていいほど受ける質問です。結論から言えば、内部に金属フレームを使用しているこの構成なら、安全性は市販のケースとほぼ変わりません。
木材の発火リスクについて
まず熱の問題ですが、木材の引火点は約250℃〜260℃と言われています。一方で、PCパーツ(CPUやGPU)の動作温度は、どれだけ高温になっても100℃前後です。最近のパーツは一定温度を超えると自動で停止する機能(サーマルスロットリング)がついているため、パーツの熱だけで木材が発火することは物理的に考えにくいのです。
木材の引火点は約260℃前後であり、自然発火することはまずありません。
出典: BTO365 - 木製PCケースの自作における安全性について
もちろん、エアフロー(空気の通り道)を確保するために、天板や側板とフレームの間には数ミリの隙間を空けて貼り付けるのがポイントです。
アースと電磁波シールドについて
次に電気的な問題です。完全に木だけで作ったケースの場合、アースが取れず動作が不安定になるリスクがあります。しかし、今回の方法は「長尾製作所の金属フレーム」を内部に使用しています。
マザーボードや電源ユニットは金属フレームにネジ止めされており、電源ユニットを通じてコンセントのアースへと繋がっています。つまり、金属フレームと電源ユニットが接触することでアースは正常に機能し、電気的な安全性は確保されているのです。
まとめ:デスクに「機能する家具」を置こう
PCケースの自作は、もはや「苦労して箱を作る作業」ではありません。優秀な市販のフレームという骨格に、あなたの感性に合った銘木という服を着せる。ただそれだけの「編集作業」でいいのです。
この方法なら、Webデザイナーであるあなたの繊細な美意識を、妥協することなくデスク環境に反映させることができます。
想像してみてください。週末、届いたばかりのウォールナットのパネルを、パチっとフレームに吸着させる瞬間を。そして月曜日の朝、美しく統一されたデスクで仕事を始める高揚感を。
まずは、長尾製作所のフレームをチェックして、あなたのデスクに合う木材を想像するところから始めてみませんか?
[参考文献リスト]