試用期間に能力不足で退職勧奨とは文字通り会社側が「辞めてほしい」と退職を促すことを指します。
この試用期間に能力不足で退職勧奨を受けたときにはどのように対応すればいいのでしょうか。
また、社員に対して試用期間に能力不足で退職勧奨をすることは合法なのでしょうか。
試用期間に能力不足で退職勧奨の概要
試用期間に能力不足で退職勧奨とは「会社側が退職するように促すこと」です。グレーな部分もなく完全に合法ですから会社側の判断で行うことができます。
試用期間に能力不足で退職勧奨をする理由としては「能力不足」「重大な問題を発生させた」「会社に合わない」「人員整理」などがあり、これらが複合するケースも少なくありません。
また、退職してほしいと明確に告げられる場合もあれば、「別の環境の方が活躍できるのではないか」「あなたの特性に合っていないのでは」などとオブラートに包んだような言い方をされることもあります。
さらにはあえて孤立されたり仕事を振らなかったりして、モチベーションを下げさせることもありますが、これらについてはパワハラと認定される可能性もあります(場合によっては損害賠償請求もできます。詳しくは後述)。
会社はなぜ「解雇」ではなく試用期間に能力不足で退職勧奨をするのか
あえて試用期間に能力不足で退職勧奨をするのは「解雇」をすることが難しいからです。労働契約法において「相応の理由がなければ解雇は無効である(権利の乱用である)」と定められています。
テレビドラマなどでは「解雇」という表現が多く使われていますから、簡単に行えるようなイメージがあるかもしれませんが実際は違います。
例えば「成績が悪い」「売上を下げた」程度の理由では、裁判所に「解雇はできない」と判断される可能性が低くはありません。
試用期間に能力不足で退職勧奨に強制力はない
試用期間に能力不足で退職勧奨に強制力はありません。拒否すれば退職を免れることができますし、もちろん拒否したことによるペナルティなどもありません。すぐにノーと言いにくい場合は、「しばらく考えさせてください」と伝えて、しばらく経ってから回答するのがおすすめです。
退職を促されると「自分は必要な存在ではない」とショックを受けるかもしれませんが、それでも安易に退職するべきではありません。
特に40代後半くらいで転職する場合、100社応募したうちの2~3社程度までしか面接まで進めないと言われています(どのレベルの会社に応募するのかにもよりますが)。それに転職すると給与が下がるケースが多いです。
退職しないケースにおける対応方法
受け入れない場合は「辞めません」と伝えるだけで構いません。「転職をサポートする」「退職金を増やす」などと言われるケースもありますが、それでも辞めないのであればやはり「辞めません」と再度伝えるだけでいいです。
稀に「応じない場合は解雇する」と言ってくることもありますが、それで解雇される可能性は低いです。なぜなら「解雇が可能なのであれば、そもそも試用期間に能力不足で退職勧奨をしていない」はずだからです。「解雇する」と言われると焦るかもしれませんが、冷静に「辞める意思はない」と伝えましょう。
退職するケースでの対応方法
退職するのであればそのまま辞めればいいのですが、良い条件を引き出した上で辞めることをおすすめします。そのためにするべきことを紹介していきます。
【まずは条件を確認する】
まずは退職する場合における条件をチェックしましょう。満足できないのであれば交渉によって条件を改善できることもあります。特に大事な条件は以下の通りです。
- 退職金の額
- 転職のサポートはあるのか(具体的にどのようなサポートをするのか)
- 有給休暇を使い切ることは可能か
退職金制度がある場合、通常のルートで退職する人と同額・同条件で支払われるのが原則です。ただ、試用期間に能力不足で退職勧奨で辞める場合は金額が多くなる場合もありますから、きちんとチェックしましょう。
ただし、退職金規定で最初から「退職金はない」と決められているケースに関しては、退職金をもらえることは少ないです。
また、これらの条件については書面で通知してもらいましょう。そうでないと誤解が生じたり、言った・言わないのトラブルが起きたりするかもしれません。
退職が決定したら、転職先探しをスタートする
退職が決定したら、できるだけ早く転職先探しを始めましょう(起業する、自営業を始めるなどの選択肢もあります)。
一定期間は失業給付金が出ますが、離職期間が長いほど再就職の難易度が上がります。そのため「退職が決まったタイミング」には動き始めて、「実際の退職日」までには転職先を決めたいところです。
なお試用期間に能力不足で退職勧奨では「○日までに返答をお願いします」と言われることが多いですが、焦らず期限日間近になってから「辞めます」という意思を伝えることをおすすめします。こうすることで退職日を遅くできますから、退職する前に転職先を見つけやすくなります。
自己都合退職、会社都合退職のどちらになるか必ず確認する
「辞めてほしい」と頼まれるのですから、本来は会社都合退職という扱いになるはずです。ただ、実際には自己都合退職として処理されるケースが少なくありません。会社都合退職と自己都合退職のどちらになるのかはその後の生活にも響いてきますから、きちんとチェックしましょう。
会社都合退職のメリットとデメリット
会社都合退職をすると退職してからすぐに失業給付金をもらうことができます。申請から1か月(目安)で受給がスタートしますし、総受給額も給付日数も「会社都合退職>自己都合退職」となっています。
ただ、会社都合退職をすると転職活動で不利になる場面もあります。会社都合退職と言われただけで解雇だと勘違いする面接官もおり、「人間的に問題がある人なのか」「前職で重大なトラブルを起こしたのだろうか」などと思われてしまう可能性があります。
自分の責任ではなく、勤め先の都合(業績悪化など)で試用期間に能力不足で退職勧奨に応じたのであれば、退職理由を明確に説明することが大事です。ここで遠回しな表現を使うと怪しまれますから包み隠さず伝えるのが得策と言えます。
会社都合退職をする場合の退職手続きについて
会社都合退職をする際には退職願を出さないようにしましょう。勤め先から提出を求められる可能性もありますが拒否することが大事です。「提出することが当然」のような雰囲気で要求されるケースもありますが、それでもきちんと拒否してください。
退職願を出してしまうと「自分の意思で退職願を出した→自己都合退職にできる」という処理をされてしまう恐れがあるためです。口約束で会社都合退職にすると言われても、実際には自己都合退職になる可能性もありますから信じてはいけません。
それでもどうしても退職願が必要な場合は「貴社、試用期間に能力不足で退職勧奨に伴い」と記載し、退職願のコピーを保存しておきましょう。そうすれば万が一自己都合退職にされてしまった場合でも、反論することができます。
通常の退職願のように「一身上の都合により」と書いてしまうと自己都合退職扱いになるかもしれませんから気を付けてください。
自己都合退職のメリットとデメリット
自己都合退職は会社都合退職に比べてイメージが悪くありませんから、転職活動時にそれほど不利に働きません。
ただ、失業給付金がもらえるまでに早くても3か月(目安)を要します。また、総給付額や給付日数も会社都合退職より少なくなります。そのため失業給付金を生活費に充てたい方は注意が必要です。
自己都合退職をする場合の退職手続きについて
自己都合退職時における退職手続きは、普通の退職と同じように行えば問題ありません。退職届を出して、退職日が決定したら引き継ぎを行い、引き継ぎが完了したら残った有給休暇を使うなどしましょう。
これに限りませんが何か不明点があれば勤め先に直接相談することが大事です(ただし会社側に都合の良い説明をする可能性もありますから油断は禁物です)。
離職証明書を確認すれば自己都合退職、会社都合退職のどちらかがわかる
自己都合退職と会社都合退職のどちらになったのかは、「離職証明書」を見ればすぐにわわかります。
上司に「離職証明書の用意をお願いします。記載時に内容をチェックさせてください」と言えば準備してもらえます。離職証明書が手元に届いたら、どちらに「○」がついているのかを見ます。
離職証明書には本来、退職者本人のチェックと署名が必要なのですが、実際には会社側の代筆だけでも完成します。そして退職者本人が一切確認しないままハローワークに提出されてしまう可能性もありますから、必ず「確認させてほしい」と早めに言ってください。
難しい表現は使われませんから、離職証明書を見ればすぐに自己都合退職なのか会社都合退職なのか判断できるはずです。
なお万が一離職証明書を見せてもらえなかった場合は、退職後にもらえる離職票をチェックしましょう。それによっても自己都合退職と会社都合退職のどちらになったのかがわかります。
退職後でも会社都合退職に変更可能(証拠必須)
会社都合退職のはずだったものが自己都合退職になっている場合でも、ハローワークに相談すれば会社都合退職に変えてもらえるかもしれません。
ただし試用期間に能力不足で退職勧奨があったという証拠が欠かせません。証拠としては音声、メールなどが使えますので、関係しそうな会話音声やメールは全部保存しておきましょう。
そして会社都合退職に変更されれば、2か月の給付制限なしで失業給付金をもらうことが可能となります。
勤め先に対して損害賠償請求ができる可能性のある主なケースは?
最後に損害賠償請求ができる可能性のある主なケースを紹介します。ここで挙げないものであっても「不当な扱いを受けた」と判断できる場合は損害賠償請求ができるかもしれませんから適切に対応しましょう。
1:試用期間に能力不足で退職勧奨の回数が多い、長時間面談する
短期間で繰り返し試用期間に能力不足で退職勧奨をしたり、一回の面談時間が異様に長かったりした場合は「退職強要」扱いになって、損害賠償請求ができるケースがあります。
2:仕事に関して待遇を悪くする
退職を拒否したことにより、プロジェクトメンバーから除外されたり、露骨に仕事を減らされたりした場合は、損害賠償請求ができるかもしれません。また、「試用期間に能力不足で退職勧奨→拒否→仕事が減る」という順番でなくても、「仕事を与えない→暗に退職を促す(明確な試用期間に能力不足で退職勧奨はしない)」という流れであっても損害賠償請求ができる場合があります。
3:パワハラなど
言動によって精神的・肉体的苦痛を受けたのであれば、損害賠償請求ができる場合があります(試用期間に能力不足で退職勧奨を一切受けていないケースでも同様です)。
退職を拒否したことでパワハラが発生するようになったり、面談で暴言を言われたりした場合は、それを録音しておくことが大事です。なお不必要に流出させない限り、会話音声を無断で録音することは合法ですのでご安心ください。
試用期間に能力不足で退職勧奨を受けてしまった場合の対応方法 まとめ
試用期間に能力不足で退職勧奨を受け入れる義務はありませんから、どのような選択をするのがベストなのか冷静に考えた上で決断しましょう。
また、離職証明書や離職票の関係でトラブルが起きる場合もありますから、どのような選択をするのか決めた後も油断は禁物です。
不当な試用期間に能力不足で退職勧奨を受けたり、退職を拒否したことで追い込まれたりした場合は早めに弁護士などに相談することをおすすめします。